■ 1973年4月 北海道大学浦河観測所(KMU)の光学式のフィルム記録, そして, 札幌観測所(SAP), えりも観測所(ERI), 広尾観測所(MYR)などのペンレコーダー式の紙記録を用いて, 日高山脈南部とその周辺の地震活動の調査を開始した. また, 必要に応じて, 北海道内の気象庁高感度火山観測所の燻紙記録や東北大学北上観測所の高密度高感度地震観測網のペンレコーダー式紙記録から, 日高山脈南部とその周辺で発生した地震の検出と験測を行なって, 震源計算精度を高めた
■ 1976年7月〜 より広域の地震活動を定常的に把握するため, 9観測点(日高地方6観測点, 札幌簾舞, 恵山, 厚岸の3観測点)からなる無線テレメータ伝送システム式地震観測網の構築とそこから北大札幌キャンパスへ伝送・集積されたデジタル地震波形データを用いた北海道とその周辺で発生する微小地震(M3以下)の地震活動調査とそのための解析ソフトウェア開発に携わった
■ さらに北海道全域を対象とした衛星テレメータ伝送システムの導入, 札幌管区気象台とのデータ交換, リアルタイムデータ流通システム導入による地震波形データの一元化と共通地震波形データ処理システム(東京大学地震研究所が開発したWINシステム)の導入に携わった. 以上の地震観測体制の高度化と膨大な地震波データの一元化による, 大学, 気象庁(JMA), 防災科学技術研究所(NIED)等とのリアルタイム波形データ流通化に携わった. その結果, ほぼ全国の地震波データの利用がインターネットを介して可能になった
■ 大爆破研究グループによる地殻構造探査の共同観測研究に参加: 1967年松代群発地震域,1968年・1969年北海道南部積丹半島~襟裳岬測線,1974年・1978年年東北沖海底爆破測線,1978中国地方反射波観測測線などの地殻構造探査に携わった
■ 被害地震後の緊急余震観測に基づく余震活動調査に参加: 1973年根室半島沖地震,1982年浦河沖地震,1993年北海道南西沖地震,1995年兵庫県南部地震,2003年十勝沖地震などの大きな被害地震の余震観測を実施し,詳細な地震活動の時空間分布の精査に携わった
■ 約40台の長時間無人カセット・レコーダー式地震観測システムの制作とそれらを用いたローカル地震活動調査と地殻構造探査のための地震観測の実施: たとえば,有珠火山噴火に伴う火山性地震を用いた地下構造調査,日高・十勝地方,函館・渡島半島南部,弟子屈・道東地方などのローカルな微小地震活動調査などを実施した
■ 南極のホットスポットであるエレバス火山(3794m)における地震・噴火活動の調査に参加: 主に、世界初の無人テレメーター観測システムの構築とそれを用いた長期地震観測に携わった.(国際共同研究: 日本政府とNSF支援による北海道大学, 極地研究所,東大地震研究所,アラスカ大学,ニュージーランド・ウェリントン大学などによる共同研究).南極域での初めてテレメーター地震観測システムは, 設置後数年間維持した. また, 山頂では, 噴火時の微細な地震波形収録のため, 手作りの長期間無人カセットレコーダーによるtripartite地震観測を1ヶ月間の山頂滞在中に実施した
■ インドネシア共和国政府からのインドネシア地質学博物館(バンドン自然史博物館)との共同による西ジャワ地域における無線による定常無人地震観測網の構築とその観測・解析に対する支援要請に応えるため, 国際協力機構(JICA)の要請に基づいて4回の支援活動に携わった. また国際協力機構の要請に基づき, インドネシア博物館スタッフ1名の短期実地研修生の受け入れを担当した
■ 北海道大学,東北大学,鹿児島大学,海洋研究開発機構,東京大学地震研究所との共同観測による鹿児島沖,新潟沖,積丹半島沖,千島海溝と日本海溝の交叉海域で実施した自己浮上型海底地震観測による海底地震活動調査と海洋地殻構造探査に携わった. さらに, 1952年十勝沖地震(M8.2)の震源域内で, 地震活動の現状把握のための自己浮上式海底地震観測に携わった
■ ノルウエー・ベルゲン大学,アイスランド・レイキャビック大学との国際共同海底地下構造探査: ノルエー沖~アイスランド沖,カリブ海・グアドループ島近海での海洋地殻構造探査に携わった
■ 米国ワシントン・カーネギー研究所との共同研究として,北大浦河地震観測所(KMU), および弟子屈町の3地点(TES,NIT,KUT)に設置した遠隔操作式ボアホール型高感度・高サンプリング体積ひずみ計(米国ワシントン・カーネギー研究所開発)による地殻の体積ひずみ観測と広帯域・大ダイナミックレンジ地震計による地震観測に携わった
■ 統計数理研究所との共同研究による地震波の状態空間モデリングに基づく地震波到達時間の自動リアルタイム決定法の開発研究. この研究の一部が世界的に注目され, 1990年4月16日から23日の期間, ブルガリアのプロブディフで開催された欧州地球物理学連合主催の若手研究者会議「地震予知と地震工学」の国際スクール・シンポジウムで招待講演を行った. そこで紹介したP波,S波の自動判定ソフトは,地震関連機関(メンフィス大学,エジンバラ地質調査所,東京大学地震研究所,東海大学海洋学部など)に提供された
■ 統計的状態空間モデリングによる, 地殻変動記録(ここでは体積ひずみ)の高精度抽出法の開発: 主な研究として, 統計数理研究所,東大地震研究所,カーネギー研究所,気象庁との共同研究として,首都圏に設置されている気象庁の体積ひずみ観測網に記録されたデータから気圧,降雨,潮汐, そしてノイズによる地殻応答成分を除去し,真の地殻ひずみ記録の抽出に携わった. さらに, 地震や瞬時の停電などによる観測中断時のデータ欠損には, カルマンフィルタを施すなどして完全記録の再現を試みた
■ 地震波動論の基礎的研究として, 北大大型計算機センターのスーパーコンピューターを利用し, Cagniard-de Hoop法の厳密波線理論の数値実験に携わった.それを用いたケース・スタディとして, 日本海で実施された海底地殻構造探査から得られた地震波速度パラメータを用いて計算した理論的反射波と屈折波の比較・検討から測線下の地殻構造の再検討を試みた
■ 同様に, 北大大型計算機センターのスーパーコンピューターを利用し, Cagniard-de Hoop法の厳密な波線理論を用いて,地震波速度境界に入射した地震波エネルギーがその速度境界で, いかに反射波, 透過波,そして境界面を伝播する屈折波に分配されるかの数値実験を試みた
■ 地震波が地球内部を伝播するとき, 観測点での地震波形は, 震源応答, 伝播経路応答, 振幅の幾何学的減衰係数, 受信点の地下構造応答と観測に用いた地震計応答の畳み込みで表される. さらに, 観測波形の上下成分と水平成分の震源関数と伝搬路応答が同じであるという単純な仮定を導入することで, よく知られているハスケル行列を利用して観測地点での速度構造の応答を求めることができる. 北海道の複数の気象庁地震観測官署に設置された固有周期5秒の地震計によって, 世界各地で発生した比較的大きな地震を観測していた.修士論文では, 気象庁浦河測候所と札幌管区気象台で記録された様々な方向から到来した深部遠地地震波のP波部の上下成分と水平成分の振幅スペクトルを計算し, それらの上下・水平成分の振幅スペクトル比の平均値から両観測点下のP波速度構造の推定を行なった
①北海道南部にはじめて構築した北大定常微小地震観測網の地震データに, 必要に応じて気象庁の高感度火山観測所や東北大学北上地震観測所の高感度高密度地震観測網の地震データを加えるなどして, 日高山脈南部とその周辺における定常微小地震活動調査がはじめて可能となった.例えば, 当該海域で発生した1982年浦河沖地震や2003年十勝沖地震の前震活動, 余震活動などが詳細に調査できた.また日高山脈とその周辺の陸域の地震活動も高く, その時空間分布も精確に把握できるようになった. 我々は, さらにこの陸上の定常地震観測に加え, 過去に発生した1952年十勝沖大地震(M8.2)の震源域内に, 約10ヶ所の自己浮上式海底地震計からなる臨時の海底地震観測点を展開し, 地震活動の現状把握を行った. 2003年十勝沖地震(M8.o)直前の2日前まで実施した海底地震観測によれば, この十勝沖地震の震源域内の数ヶ所で極く微小な地震からなるクラスターを確認した.これらのクラスターは,陸域の定常地震観測網からでは検出が難しいくらいの小さな地震の集まりである.この地震観測の終了直後の9月26日に2003年十勝沖地震(M8.0)が発生した.数年後,再び同様の観測網を展開したところ,2003年十勝沖地震の直前に確認されたクラスターはほとんど確認できなかった.最近では,千島海溝南部と日本海溝北部の海底に展開された海底ケーブル式定常地震観測網「S-net」のデータが気象庁の通常の震源計算に加えられている. したがって, 最近の気象庁地震カタログからは上記のようなクラスター地震の検出が可能になったと期待される
②定常微小地震観測網の展開により, 日高山脈下に発生する小規模地震の初動データに基づく震源メカニズム解の計算も可能となった.また日高山脈下で発生した地震についての震源メカニズム解析も可能になった. 40km以浅の地震の震源メカニズム解析から, 太平洋プレートの沈み込み方向から推定される応力場と異なる東西圧縮応力場がはじめて実証できた. この新たな応力場は, 今日よく知られている, 歯舞諸島, 色丹島, 根室半島を含む千島前弧(スリバー)の西進説を支持する
③大きな地震直前の地震活動度パターン変化の検出について, 定常微小地震観測網データに基づいて計算された地震の時空間分布を調査した. その結果, 1982年浦河沖地震,1993年北海道南西沖地震,1994年北海道東方沖地震など北海道沿岸で発生した大きな地震の発生直前で地震の規模別頻度分布や地震活動度が明瞭に変化しているのが確認できた. さらに, 京都大学防災研究所の地震カタログを用いて行なった同様の調査では, 大被害を被った1995年兵庫県南部地震直前でも同様の変化が確認できた
④定常微小地震観測網の展開から数年間に発生した日高山脈南部付近に発生した地震の初動P波の走時データを用いて, Aki and Lee (1973)による新しい3次元地震波トモグラフィ法を初めて適用し, 日高山脈下約100km付近の深さまでのP波速度の偏差値分布がイメージできた. この解析から, 日高山脈西部深部の大きな低速度帯, 東部では逆に高速度帯の速度構造帯の存在が推定された. この推定された速度偏差分布と地震活動との対比から, 地震活動が相対的に高い場所に低速度域が重なっていたのが示された. 日高山脈には火山は存在しないが, 世界有数の造山帯であり, イメージされた速度構造と地震活動との関係にはその造山運動を無視することはできない. さらなる詳細の検討が待たれるが, 現在は臨時の海底地震観測網データや全国一元化地震データを加えたトモグラフィ解析によって, より広範な北海道の速度構造がイメージされている
⑥定常微小地震観測網に観測された微小地震波の自動判定とその波形抽出のために, 状態空間モデリングによる最適自己回帰モデルの適用法開発に携わった. その解析には, 赤池情報量基準(AIC)の導入し, 複雑な地震波形からP波,S波,バックグランド・ノイズなどの最適なモデルを構築することによって, 客観的に高精度のP波とS波の到着時刻のリアルタイム判定が可能となり,その結果, 震源計算能力が飛躍的に向上した
⑦カーネギー研究所で製作された広帯域地震計に記録された地震波形から, 高精度の減衰構造を推定するためには直流近傍までフラットな振幅スペクトラムが要求される. そのためには, 前もって生の地震波形からバックグランド成分とS波部分に重畳したP波のコーダ成分を除去する必要がある. そこで, 生の広帯域地震波形に状態空間モデリングを適用し, バックグランド波形, P波群, そしてS波群に対する最適な自己回帰モデルをそれぞれ推定した.さらに, 推定された各波群の振幅スペクトラル分布を用いて, バックグランドの応答の除去とS波群からP波コーダの除去を行ない, より純粋なP波群とS波群の波形を推定した. そこで得られた2つの波群のスペクトル比を用いて, 東北大学沢内観測点直下の減衰構造をイメージした. その結果, 火山フロントにある沢内観測点の直下に明瞭な減衰域(Low-Q zone)が推定された. その場所は, 波形のスペクトラム解析とは独立に, すでに地震波の走時データによる地震波トモグラフィー解析が行われ, 地震波速度変異分布がイメージされた. そこでイメージされた火山フロント下の低速度帯が, 波形のスペクト楽解析から抽出されたLow-Q zoneとほとんど重なっているのが明示された.火山フロントにある沢内観測点下の低速度とLow-Q zoneから,乾いたマントル物質での部分溶融の可能性が示唆された
⑧カーネギー研究所が開発し, 北海道大学浦河地震観測所(KMU)に設置した高感度・高サンプリングのSacks-Evertsonボアホール型体積ひずみ計に記録された2003年十勝沖地震(M8.0)前後のひずみ記録に対して, 状態空間モデリングを適用しながら気圧, 降水, 潮汐, そして人工的なノイズ等による地殻変動成分を分離した. 生の体積ひずみ記録からそれらの応答を取り除いた真の体積ひずみ記録に, 十勝地方と日高地方に展開されているGPS観測点の変位記録を参考にしながら矩形断層運動の推定を試みた. 本震の震源から105kmのKMU観測点に設置された体積ひずみ計は, 2003年十勝沖地震(M w8.0, 2003年9月25日19:50:06 UTC)の後の鮮明で緩やかなひずみ事象を記録した. これは4日間の収縮と23日間の膨張期間からなっていた. 北海道南東部のGPSサイトでも同じ時間帯に対応した変位が記録された. そこで準静的計算を用いて, 測定された量の合成波形を作成したところ, 50cmの一様な振幅のゆっくりとした逆すべりを仮定すると, 一定の9cm/s(第一段階)と指数関数的に3から0.7cm/sに減少する破壊伝播速度(第二段階)の2段階からなるモデルが推定された. この地震後のすべり現象は, 和達-ベニオフ地震帯(DSZ)の上部平面上の本震破壊と同一平面上にあり, その地震破壊とほぼ重なると考えた. ちなみに, この沈み込み帯区分では, 通常の地震によって, プレート運動の約30%しか解放してない
⑨ホットスポットである南極ロス島エレバス火山(3,794m)で, 世界初の長期無人テレメートリー連続地震観測から,エレバス火山は現在最も活発な火山の1つであり, 山頂の溶岩湖から常に噴煙が上がり, 時には地鳴りや火山性地震を伴っているのが確認できた.山頂の溶岩湖周辺では, 地震観測, 測地調査, 地表温度測定, 地電流測定, 地鳴り観測など, 可能な限りの観測を行った.特に, 溶岩湖直下で活発な地震が発生しているのが確認された. 数年に及ぶ連続無人テレメーター観測によって, 山頂の気温がマイナス50〜60℃にもなる真冬であっても, バッテリーと太陽電池との併用で,数年に及ぶ長期間無人連続地震観測が可能であることを実証した